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Updated by Kunihiro Maeda on May 24, 2019
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Book Reviews about "Diplomacy"

【書評】鈴木均『サッチャーと日産英国工場 誘致交渉の歴史 1973〜1986年』(吉田書店、2015年)

あと1ヶ月と少しでEU離脱をめぐる国民投票が行われるイギリスでこそ本書は読まれるべきであろう。本書には、サッチャーが、当時衰退していたとみられていた製造業の復活に向けて、日本の一自動車メーカーからの対内直接投資の実現に奔走し、対EC圏諸国への輸出を拡大しようとした姿が描かれているからだ。もし仮にブレグジットが実現したら、イギリスからEUへの輸出は激減するであろうし、対EU輸出の拠点としてイギリスを投資対象としてきた各国メーカーからの直接投資はほぼなくなるとみてよいと思われる。さらに本書でも示されているように、サッチャーは外国資本の進出にイギリス製造業の生産性向上の引き上げ役を期待していたが、そのような効果もEU離脱後は期待できそうもない。サッチャーが対内直接投資の増大、製造業の生産性向上、対EC輸出の拡大にいかに苦闘したかを本書から学んでもらい、イギリス国民には賢明な選択をしていただきたい。

【書評】春名展生『人口・資源・領土 近代日本の外交思想と国際政治学』(千倉書房、2015年)

国際政治学の原点を問い直す研究が盛んである。また、日本における国際政治学の学説史を扱った研究が増えている。  前者はとりわけ、国際政治学の祖の一人であるE・H・カーないし国際政治学における「第一論争」(理想主義対現実主義)の再評価にかかわるものが多い。最新の研究として、籔田有紀子の『レナード・ウルフと国際連盟 理想と現実の間で』(昭和堂、二〇一六年)が挙げられる。カーから両大戦間期の「空想主義者」の一人として批判され、二十世紀後半の国際政治学では軽視されがちだったウルフを再検討し、彼がどのような国際秩序構想を持ち、国際連盟を通じて現実にどのような政策を追求したかを実証的に描いた作品である。  後者では酒井哲哉の『近代日本の国際秩序論』(岩波書店、二〇〇七年)を一つの画期として、同じ酒井が編者を務めた『外交思想』(岩波書店、二〇一三年)をはじめとする成果が続々と出されるようになった。拙稿「国際政治 『外交』『国際』『政治』をめぐって」森田ほか『現代政治の理論と動向』(晃洋書房、二〇一六年)は、その最新の(残念ながら最高の、とは到底言えないが)例であり、

【書評】西川賢『分極化するアメリカとその起源―共和党中道路線の盛衰』(千倉書房、2015年)

本書は2016年の米国大統領選挙を前にタイムリーに出版され、共和党内に生じた中道と右派の間の分極化がいつ起きたか、その起源をアイゼンハワー大統領期に遡り、その本質にせまる本格的な研究書である。トランプのような非主流派(アウトサイダー)の台頭がなぜ現在起こっているかを理解するにも有用である。勿論トランプの台頭の理由には、グローバル化の進展による格差問題や移民・難民問題をテロと結びつけて論じようとする21世紀的な言説もあるが、著者が冒頭で言う「分極化が生み出すアメリカ民主主義の病理」としての非妥協的精神とは何かを説明し、またこの非妥協的精神こそが分極化をもたらしたことを立証した研究である。

【書評】ケント・E・カルダー『ワシントンの中のアジア』ライシャワー東アジア研究センター監修・監訳(中央公論新社、2014年)

本書は、アメリカで最も信頼されている日本政治研究者の一人であるケント・カルダー教授が、グローバル・シティとなったワシントンでの都市政治について、アジア諸国の動向を中心に記したものである。日米同盟が安全保障領域に限定される傾向があり、また日本政府がニューヨークばかりに関心を集中させる中で、ワシントンでの日本の影響力が急激に衰退していることに著者は警鐘を鳴らしている。
 ケント・カルダー教授は、ハーバード大学大学院で、ケネディ政権での駐米大使を務めた碩学エドウィン・ライシャワー教授の薫陶を受け、その後長らくプリンストン大学で教鞭を執った。クリントン政権二期目には、東京のアメリカ大使館で駐日アメリカ大使特別補佐官を務め、2003年からはワシントンDCのジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)でライシャワー東アジア研究センターの所長を務めている。その著書の多くは邦訳されており、『自民党長期政権の研究 ―危機と補助金』(文藝春秋社、1989年)では大平正芳賞を、『アジア危機の構図 ―エネルギー・安全保障問題の死角』(日本経済新聞社、1996年)ではアジア・太平洋賞を受賞している。その専門は、自民党研究、日本の政治経済分析、東アジア国際政治、日米同盟と多岐にわたっており、アメリカにおける日本政治研究の発展にこれまで多大な貢献をなしてきた。 - See more at: http://www.tkfd.or.jp/research/political-review/a01219#sthash.sEy8FQuO.dpuf

【書評】山尾大『紛争と国家建設―戦後イラクの再建をめぐるポリティクス』(明石書店、2013年3月)

2003年3月20日、アメリカはイラクが国連安保理決議に違反する大量破壊兵器を保有しているとして、イギリスとともに攻撃を開始した。イラク戦争の勃発である。圧倒的な軍事優位に立つアメリカによって、四半世紀にわたってイラクを支配してきたサッダーム・フセイン政権をあっけなく倒された。5月1日には、ブッシュ大統領が戦争終結宣言を出した。戦争終結後、米軍はイラクに留まり、アメリカの主導でイラクの民主化が行われた。アメリカは、フセインの圧政からイラク国民を解放し、イラクに民主主義を樹立することを戦争目的のひとつに掲げていたからである。
しかし、イラクの国家機構の再編及び民主化は容易に進まず、現在に至っている。何ゆえ、こうした事態に立ち至ったのであろうか。これを解明するため、本書では、イラク戦争後のイラクの新国家建設及びそれをめぐるポリティクスが多角的かつ実証的に描かれる。そして、アメリカという外部アクターとイラク国内の内部アクターによる「アクター間の関係性」に着目して、分析が進められる。本書の著者山尾大氏は先年『現代イラクのイスラーム主義運動 革命運動から政権党への模索』(有斐閣、2011年)を公刊している。本書は、前著から導き出された課題に対する著者の応答である。 - See more at: http://www.tkfd.or.jp/research/political-review/a01181#sthash.AkNGTCgo.dpuf

【書評】『アメリカ VS ロシア ―冷戦時代とその遺産―』ウォルター・ラフィーバー著、平田雅己・伊藤裕子監訳(芦書房、2012年)

本書は、冷戦期を中心に9・11後も含めた時期(1945-2006年)についての米ソ(ロ)関係・アメリカ外交史の代表的通史の邦訳である。著者のラフィーバーは、修正主義学派を代表する外交史研究者であり、The New Empire(1963)やThe Clash(1997)など数多くの著作がある。 本書はこれまでに10版を重ねた定評のある教科書である。しかし、本書の邦訳がいま出版され、日本において広く読まれる意味をどのように考えるべきなのであろうか。1967年の初版出版から既に45年が経過し、ベトナム戦争を機に隆盛した修正主義もすでに往時の影響力が失われて久しい。また、近年の冷戦史研究では、本書のような米ソ中心史観は強く批判され、国際関係史、さらにはグローバル・ヒストリーの必要性が強調されるに至っている。

【書評】『グローバル冷戦史―第三世界への介入と現代世界の形成』O. A.ウェスタッド著/佐々木雄太監訳(名古屋大学出版会、2010年)

本書の原書が出版されたのは2005年のことであるが、本書は冷戦史研究の新たな方向性を提示した画期的な研究であり、すでにガディスやレフラーの著作に並ぶ冷戦史の必読書として定着した感がある。このたび、最新の研究成果である本書が、平易な日本語に翻訳され、学究者のみならず一般読者にも容易に入手できるようになったことを、まず喜びたい。